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最高裁判所第三小法廷 平成4年(オ)674号 判決 1992年11月06日

岐阜県中津川市駒場一一五三番地

上告人

鈴木工業株式会社

右代表者代表取締役

鈴木嘉進

右訴訟代理人弁護士

川島和男

秋保賢一

岡山県川上郡川上町大字仁賀六三五番地

被上告人

オーエム機器株式会社

右代表者代表取締役

難波正義

右当事者間の名古屋高等裁判所平成二年(ネ)第六〇二号仮保護の権利の侵害による差止及び損害賠償請求事件について、同裁判所が平成四年一月二九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人川島和男の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程にも所論の違法は認められない。論旨は、原審の専権に属する事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 可部恒雄 裁判官 坂上壽夫 裁判官 貞家克己 裁判官 園部逸夫 裁判官 佐藤庄市郎)

(平成四年(オ)第六七四号 上告人 鈴木工業株式会社)

上告代理人川島和男の上告理由

目次

前文(上告の対象とする原判決の理由) 一頁

上告理由 二四頁

第一点 原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかなる実体法(実用新案法第二六条において準用する特許法第七〇条)の違背(民事訴訟法第三九四条)又は判決の理由に齟齬(民事訴訟法第三九五条第一項第六号)があるから破棄されるべきである。 二四頁

一、本件考案とイ号物件の構成 二四頁

二、本件の争点 二六頁

三、右争点一、二に関する原判決の判断 三一頁

四、原判決の違法について 三九頁

五、結語 五〇頁

第二点 原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかなる審理不尽の違法があるから破棄されるべきである。 五二頁

一、原判決の審理不尽の違法について 五二頁

二、結語 五五頁

前文

(上告の対象とする原判決の理由)

本件は、上告人(第一審原告、原審控訴人)の出願に係る実公昭六〇-二〇七七一号の出願公告に係る権利(以下、「本件仮保護の権利」といい、その考案を「本件考案」という。本書に別紙一として添付する。)を被上告人が侵害していることを理由として、被上告人が製造販売しているイ号物件(本書に別紙二として添付する。)の製造、販売等の差止め及び損害賠償を請求した実公昭六三二〇七七一号の仮保護の権利の侵害による差止及び損害賠償請求控訴事件(名言屋高等裁判所平成二年(ネ)第六〇二号事件)に対するものである。

なお、第一審、原審共に、上告人(原告、控訴人)の主張、請求が斥けられたものである。

そこで、上告の理由を記載するにあたり、まず前文として上告の理由の対象となる原審の原判決の理由を記載する。(なお、原審の原判決の理由欄一及び二は、第一審の判決理由を引用し、付加訂正したものであるので、第一審の判決文にその付加訂正を加えたものを記載する。原審において付加訂正された部分には傍線を付して示す。また、第一審における原告は原審における控訴人であり、同じく被告は被控訴人であるので、第一審判決引用部分において原告とあるのは控訴人、被告とあるのは被控訴人と置き換えて記載する。)

原判決の理由

一 請求原因1のうち控訴人が本件仮保護の権利を有していること及び同3(被控訴人が業としてイ号リブ材を製造販売していること)の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、イ号リブ材が本件考案の技術的範囲に属するかどうかにつき検討する。

1 本件考案の構成要件を分説すると、控訴人主張のとおり、ABCDの四つの要件からなることは、「補強用リブ材」の意義を除いては当事者間に争いがない。

2 また、イ号リブ材の構成を分説すると、abcdの四つの要素になることも当事者間に争いがない。

3 そこで、本件考案の構成要件Aの「補強用リブ材」の意義について検討する。

これについて、被控訴人は、少なくともガイド機能を有するもの限定されると主張し、一方控訴人は、「補強用リブ36」と「ガイド板21」の両方を含む上位概念であると主張する。

弁論の全趣旨によれば、本件考案に関する明細書中の「考案の詳細な説明」のうちの(考案が解決しようとする問題点)の項には、「…従来のガイド板においては直線状の両側縁を備えた長尺状の鋼板を単にL形に折り曲げただけの構成であり、材料の節減に関して何ら工夫がなされておらず、製造コストが高くつくという問題点があった。この考案の目的は、強度を維持しつつ軽量化及び材料の節減を図ることができるコンクリート型枠の補強用リブ材を提供することにある。」と記載されており、また(実施例)として開示されているのは、ガイド板21のみであることも認められる。

更に、前期明細書中の「考案の詳細な説明」のうちの、(問題点を解決するための手段)及び(実施例)を総合すると、本件考案においては切込み28の内周縁と突部23の外周縁とが同一形状をなし、また、切込み29の内周縁と突部22の外周縁も同一形状をなすことによって、材料に無駄がなくなり、上記目的のうち軽量化及び材料の節減が達成されていることが認められるが、一方弁論の全趣旨並びにこれによって真正に成立したものと認められる乙第二号証によれば、凹凸を有する金属板を連続して打ち抜く場合、あらかじめ切込みの内周縁と突部の外周縁とが同一形状をなすように設計しておけば材料に無駄が生じないことは、スクラップレスプレス(スクラップレス方式)と呼ばれる技術であって、古くから知られており(スクラップレスプレスが知られた技術であることは当事者間に争いがない。)、しかも当業者の間ではかなり陳腐であることが認められる。したがって、本件考案は、右技術を、後記の一側を型枠本体に対して固着する方法を採用してガイド板に応用したことに進歩性が認められるものと言わなければならない。

これらの事情を総合すると、本件考案の「補強用リブ材」の概念は、被控訴人が主張するように少なくともガイド機能を備えたものであることを要すると解するのが妥当である。

4 以上を前提として、イ号リブ材が本件考案の技術的範囲に含まれるか否かを検討する。

(一) 前示のように、本件考案の『補強用リブ材』は少なくともガイド機能を備えたものであることを要するものであるが、弁論の全趣旨によれば、イ号リブ材はガイド機能を備えたものではないことが明らかである。

したがって、この点において既に、イ号リブ材は本件考案の構成条件Aを充足しないというべきである。

(二) また、イ号リブ材が両側をコンクリート型枠に固着する構成である(構成a)であることは当事者間に争いがないが、これは本件考案の構成要件A(一側固着)を充足しないことは明らかである。

控訴人は、本件実用新案登録請求の範囲には、「一側を型枠本体に対して固着する」と記載されているだけで、「一側のみを固着する」と記載されていないことをとらえて、「両側を型枠本体に固着する」場合も含み得るかのごとき主張をする。

しかしながら、弁論の全趣旨及び当裁判所に顕著な経験則によれば、コンクリート型枠のパネル補強用のリブ材の型枠に対する固着方法は、少なくとも両側縁を固着させる場合には一側固着(L字状またはZ状)か両側固着(<省略>状)かに限られ、他の方法をとることはできないことが認められ、これを前提とすれば、「一側を型枠本体に固着する」ということは、「両側を固着する」ということとは対立するものであってこれを含まないと解するのが相当である。

更に、控訴人は、イ号リブ材の構成aが本件考案の構成要件Aをそのまま充足するとはいえなくても、一側固着か両側固着かは設計上の微差にすぎないと主張する。

しかしながら、原本の存在とその成立に争いのない乙第一号証の七及び八によれば、控訴人は、本件考案の出頭(出願の誤記と思われる)にあたり、『型枠とリブ材の関係が不明瞭』であるとの拒絶理由通知を受けて、『一側を型枠本体に対して固着する』と請求の範囲を補正したものであることが認められるうえ、先述したとおり、本件考案の「補強用リブ材」とは少なくともガイド機能を有する必要があるところ、それは、型枠本体に固着させた一側縁に対応する他側縁にガイド機能を備えさせて、右両側縁に構成要件B、Cを充足させたものであって、一側固着か両側固着かは置換可能性があるとはいえない。よって、これが設計上の微差にすぎないとの控訴人の主張は失当である。

以上によれば、イ号リブ材は本件考案の構成要件Aを充足しないというべきである。

(三) したがって、イ号リブ材は本件考案の技術的範囲に属しない。

三 当審における控訴人の主張に対する判断

1 構成要件Aにおける「補強用リブ」の意義について

(一) 控訴人は、前記当審における当事者の主張1、(一)のとおり、本件考案の対象である「補強用リブ」はガイド板21のみを言うのではなく、補強リブ36を含むものである旨主張する。これに対し、被控訴人は、同2、(一)のとおり、本件考案は縦補強枠である補強リブ36を対象としたものではない旨主張するので、以下、これを検討する。

(二) 一般に、実用新案の登録出願にかかる考案の技術的範囲の判断に当たっては、願書に添付した明細書における「実用新案登録請求の範囲」における記載が基準になるものであることは言うまでもないが、そのことは、もとより、右判断が右に記載された文言の語句のみに形式的に依拠すべきであることを意味するものではなく、右判断は、その出願時における技術水準に立脚して、明細書に記載された考案の詳細な説明及び図面、出願の経過その他に照らしてその請求の範囲に記載された技術的意味を合理的に解釈して決すべきものである。出願の過程において補正があった場合には、その経過も、右合理的解釈をするについての重要な資料として参酌する必要がある。そこで、本件考案における出願の経過についてまず判断する。

原本の存在とその成立に争いのない乙第一号証の一ないし九、成立に争いのない乙第六号証、同第八号証の一、二、原本の存在とその成立に争いのない乙第八号証の三の一ないし四、同第八号証の四の一ないし四、甲第一六号証、甲第一七号証の一、二及び弁論の全主旨によれば、次の各事実が認められる。

(1) 控訴人は、昭和五七年一二月二五日に本件考案の出願をなしたが、その願書及びこれに添付した当初明細書によると、考案の名称を「コンクリート型枠における連結ピンのガイド板」と、技術分野を「コンクリート型枠における連結ピンのガイド板に関する。」として請求の範囲をガイド板に限っていたこと、「考案の詳細な説明」の欄における「目的」の項において「この考案の目的は、重量をそのままにした状態で、または軽量化及び材料の節減をした状態で、ガイド部の変形を防止することができるコンクリート型枠における連結ピンのガイド板を提供することにある。」とし、その「効果」の項において、「この考案は、ガイド部に補強突部(補強突部27の意味である。)を打出し形成したことにより、重量をそのままにした状態で、または軽量化及び材料の節減を図った状態で、ガイド部の変形を防止することができる効果を奏する。」とし、実施例及び図面も専らガイド板とガイド機構についての考案が示されていた。

(2) 控訴人は、昭和六一年九月二二日付で右出願について審査請求をするとともに当初明細書の第一回の手続補正をしたが、右補正は考案の詳細な説明及び図面の簡単な説明の欄並びに図面についての若干の部分的補正をするものであった。さらに控訴人は、昭和六二年二月二五日付の拒絶理由通知を受けて同年五月二八日付で第二回の手続補正をした。右補正の内容は、明細書の全文と図面を補正するもので、考案の名称を「コンクリート型枠の補強用リブ材」と、技術分野を「コンクリート型枠の補強用リブ材に関するもの」として請求の範囲をコンクリート型枠の補強用リブ材との表現に改めた。そして、その詳細な説明欄において、目的については、「この考案の目的は、強度を維持しつつ軽量化及び材料の節減を図ることができるコンクリート型枠の補強用リブ材を提供することにある。」と、その効果については、この考案は、「補強用リブの強度を維持しつつ軽量化及び材料の節減を図り、製造コストを低減できる優れた効果がある。」と、それぞれ変更した。しかし、その詳細な説明における従来の技術と考案が解決しようとする問題点、実施例と図面では、「補強用リブ材としてのガイド板」との修辞を用いつつも、ガイド板に関する説明に止めている。控訴人は、右補正後に同年九月一四日付けの、型枠とリブ材との関係が不明瞭であることを内容とする拒絶理由通知を受けて同年一二月九日付で第三回の手続補正をしたが、この補正の内容は、型枠本体とリブ材との関係について、鋼板を折曲げて形成された一側を型枠本体に固着させるものであることを明確にする等のものであった。その結果、本件出願は、昭和六三年一月二五日、出願広告(公告の誤記と思われる。)の決定を受けた。

(3) 被控訴人は、この間の昭和五九年二月一〇日にコンクリート打設用型枠の縦補強に切込みと膨らみを同一形状にして両側縁を対応させる意匠を登録出願し、昭和六一年六月二六日に登録を得ていた。その後、被控訴人は、右意匠にかかる本件イ号リブ材を製造販売するようになり、本件の係争に至った。控訴人は、原審での右係争中の平成元年四月二八日、本件出願を原出願として二件の分割出願をした。その一つは、コンクリート型枠の補強用リブ材において「折曲部a-aと他側縁との間に補強突部27を打出し形成したこと」を特徴とするものであり(以下、この分割出頭(出願の誤記であると思われる。)を「分割出願A」と言う。)、もう一つは、同じ補強用リブ材において「鋼板50を折曲げて断面Z形に形成したこと」を特徴とするもので(以下この分割出願を「分割出願B」と言う。)、いずれも補強用リブ36を含めて技術範囲の対象としたものであった。しかし、分割出願Aについては、平成三年三月一一日、原出願の考案において、ガイト板と縦補強枠とは明確に区別して記載され、ガイド板が補強用リブ材を含むことが自明であるとは認められず、出願を適法に分割したものではないとの理由で、出願日の遡及が認められないとの拒絶理由通知を受け、分割出願Bについては、同年同月六日、原出願の明細書及び図面から見て型枠の連結部材以外の補強用リブに切込みと膨らみを形成することが自明であるとは認められないとの理由で拒絶査定を受けた。これに対し、控訴人は、右分割出願Aについては同年五月三一日に右拒絶理由通知に対する意見書を提出し、分割出願Bの拒絶査定については同年五月九日に審判請求をした。右のいずれについても、控訴人は特許庁が認定を誤ったものと主張している。

(三) 本件考案についての前示認定事実(原判決引用)と右(1)、(2)の本件出願の経過を総合して判断すると、本件考案の明細書における実用新案登録請求の範囲に記載された事項によれば、本件考案の構成要件Aにおける「補強用リブ」には文理上何らの限定がされていないので、縦補強枠としての補強用リブ36を含むものと解釈できないものではないが、その出願時における当初明細書によれば、本件考案の対象が専らガイド板ないしガイド機能を有する補強リブに関する考案であったこと、右当初明細書記載は控訴人の補正により前記の本件考案の請求の範囲のとおりに改めらりれたものであることが明らかである。

ところで、実用新案法九条によって準用される特許法四一条は、出願公告決定謄本の送達前においては、出願に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてした請求の範囲を変更する補正は、明細書の要旨を変更しないものとみなされる旨定めており(このことは、当初の出願として効力を有する補正は、右の範囲内においてのみ許されることを意味すると解される。)、補正が右明細書又は図面に記載した事項の範囲内であるかどうかは、出願時における当業者が補正前の明細書の記載からみて自明な事項と言えるか否かによって決すべきものと解される。そこで、控訴人が本件考案の出願にあたり添付した当初明細書の記載に基づき前示補正後の内容を検討すると、本件考案の名称が「コンクリート型枠における連結ピンのガイド板」から「コンクリート型枠の補強用リブ材」に、技術分野を「コンクリート型枠における連結ピンのガイド板に関するもの」から「コンクリート型枠の補強用リブ材に関するもの」にそれぞれ改め、考案の目的、効果についても連結ピンのガイド板に関するものから補強用リブ材に関するものに改めて、その請求の範囲をガイド板に限っていたものを補強用リブ材としており、本件考案の技術意味をガイド板に関するものから補強用リブ材に変更している。しかし、本件考案の当初明細書においては、ガイド板と縦補強枠である補強用リブ材とは明確に区別して記載されており、構成要件B、Cの切込みと膨らみをコンクリート型枠の連結部材以外の補強用リブ材に形成することは当初明細書及び図面に記載した事項とは言えないし、また、当初明細書及び図面に記載した事項から見て当業者にとっての自明な事項とも言い難いものである(前項(3)判示の経緯もこれを裏付けるものである。)。

そうすると、控訴人のした前記補正をガイド機能を備えない補強用リブを含むものとして認めるとすれば、右補正は当初明細書の要旨を変更するものとなると考えられるので、本件出願をできる限り有効なものとして解釈するのが相当であるから、本件考案の技術的範囲は、現実にされた右補正にもかかわらず、当初明細書の要旨の範囲内において解釈すべきである。したがって、本件考案における構成要件Aの「補強用リブ」の概念は、少なくともガイド機能を備えたものであることを要すると解するのが相当である。

(四) 控訴人は、当初明細書及び図面において、縦補強枠である補強用リブ36が図示されており、ガイド板21も補強材としての機能があることを示しているので、前記補正は当初明細書及び図面に記載した事項の範囲内のものであると言うが、弁論の全趣旨によれば、当初明細書及び図面における補強用リブ36はコンクリート型枠自体の、構造を示すために記載されているにすぎず、本件考案を利用した補強用リブ材として記載されているとは認め難く、ガイド板21の補強機能についての記述というものも、本件考案によりガイド板21の変形を防止する効果があることを述べているもので、型枠への補強機能を述べているものではないから、右記述をもってガイド板を補強用リブとして記述したものと見ることはできない。

したがって、右補正の内容は、補強用リブとして説明されていないガイド板から、ガイド機能を有しない補強用リブも含むものへと変更するものであることになり、右補正の内容が当初明細書及び図面に記載のある事項の範囲内にあると言うことはできない。また、控訴人は、当初明細書を基準にしても、当業者にとっての自明事項を踏まえて本件考案の技術的思想をとらえれば、本件考案がガイド板に限定されるものではないと主張するが、本件考案は公知のスクラップレスプレスを一側固着の方法によりガイド板に応用したことに進歩性があるとしても、これを縦補強枠に応用することまでが本件考案の内容として自明な事項とはただちには認め難いので右主張も採用できない。

(五) そうすると、本件考案は、補正後も依然として、縦補強枠である補強リブ36を対象としたものでははないと考えるべきであり、本件考案における「補強用リブ材」の概念は、これを前示のとおりに(原判決引用)限定して解釈しなければならない。

2 構成要件Aにおける「一側固着」について

(一) 控訴人は、前記当審における当事者の主張1、(二)のとおり、本件考案の構成要件Aにおける「鋼板を折曲げして形成された一側を型枠本体に対して固着」させることと、イ号リブ材において両側を型枠本体に固着させることとは、設計上の微差にすぎないと主張し、両側固着のリブ材であってもガイド機能を持たせることは連結ピンを支持する連通孔を設けることで果たすことができる旨指摘する。

(二) しかし、既に右1において判示したとおり、本件考案は、その対象を少なくともガイド機能を有する「補強用リブ材」とするものであるが、このことと、控訴人が自らその要件を補正して一側縁を型枠本体に固着させるとの要件を示したものであることを併せて考えれば、本件考案は、切り込みと膨らみを形成した両側縁の一方を固着部に、他方をガイド部に設けることを特徴としたものであることが明らかである。したがって、控訴人が指摘するような両側縁を固着させたうえ連結孔を設けてガイド機能を持たせることは本件考案の明細書及び図面に示されたその技術的範囲に属するものではなく一側固着か両側固着かは設計上の微差にすぎないと言えるものではない。

3 そうすると、右1又は2のいずれの理由からしても、イ号リブ材は、本件考案の構成要件Aを充足しないことは明らかであり、本件考案の技術的範囲に属しないと言わなければならない。

四 結論

以上のとおりでありから、その余の点を判断するまでもなく控訴人の本訴請求はいずれも理由がないのでこれを棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は失当である。よって、本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

上告理由

第一点

原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかなる実体法(実用新案法第二六条において準用する特許法第七〇条)の違背(民事訴訟法第三九四条)又は判決の理由に齟齬(民事訴訟法第三九五条第一項第六号)がある。

一、本件考案とイ号物件の構成

本件は上告人の出願に係る実公昭六〇-二〇七七一号の出願公告に係る権利、すなわち本件仮保護の権利を被上告人が侵害していることを理由として、被上告人が製造、販売しているイ号物件(別紙二)の製造、販売の差止め及び損害賠償を求めたもので、本件考案の実用新案登録請求の範囲は、添付実用新案公報(別紙一)中の「実用新案登録請求の範囲」記載のとおりである。

本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載を、構成要件毎に分説すれば、次のとおりである。

A 鋼板を折曲げして形成された一側を型枠本体に対して固着するコンクリート型枠の補強用リブにおいて、

B 鋼板50の一側縁より凹状の切込み28を形成し、

C これと対応する位置の他側縁において前記切込み28と同一形状の凸状をなす膨らみ23を形成するとともに、

D 切込み28内側縁と前記他側縁との間に少なくとも一つの折曲部a-aを設けたこと

一方、イ号物件の構成は、本件考案に対応して分説すれば、次のとおりである。

a 鋼板を折曲げして形成された両側を型枠本体に対して固着するコンクリート型枠の補強用リブにおいて、

b 鋼板の一側縁より凹状の切込みを形成し、

c これと対応する位置の他側縁において前記切込みと同一形状の凸状をなす膨らみを形成するとともに、

d 切込み内側縁と前記他側縁との間に六つ折曲部a-a、b-b、c-c、d-d、e-e、f-fを設けた山形状にした

二、本件の争点

本件においてイ号物件が本件考案の技術的範囲に属するか否かにつき主たる争点となったのは、次の二点である。

一つが右第一項に述べた本件考案の構成要件Aにおける「補強用リブ」の意義であり(以下これを単に争点一ということがある)、もう一つが同じく本件考案の構成要件Aにおける「一側固着」の意味である(以下これを単に争点二ということがある)。

右各争点について上告人、被上告人の主張を要約して記載すると次のとおりである。

(一)争点一について

(上告人の主張)

当然であるが、上告人は第一審、原審ともに本件考案の構成要件Aにおける「補強用リブ」とは、明細書におけるガイド板21のみを言うものではなく、補強リブ36をも含む上位概念であると主張した。そして、特に原審においては、その根拠として次の点を主張した。

(1)右「補強用リブ」の解釈は、本件考案の明細書の実用新案登録請求の範囲の記載を基になされるべきであり、明細書の詳細な説明に記載された「実施例に限定してなされるものではない。

(2)本件考案は、当初「ガイド板」について権利要求するものであったが、その後の補正により「補強用リブ材」を対象としたものであるが、この補正は、実用新案法第九条において準用する特許法第四一条の規定により適法であり、遡及効を有することから本件考案については補正後の権利内容、つまり「補強用リブ材」を対象とする権利として本件考案の技術的範囲を解釈すべきである。

(3)被控訴人は、認識限度論を根拠として本件考案については出願当初の明細書を基準として本件考案の技術的範囲を解釈すべきであると主張するが、当業者にとって自明の事項も踏まえて本件考案の技術思想を捉えれば、本件考案の「補強用リブ材」はガイド板21に限定されるものではなく、縦補強枠である補強リブ36を含むと解釈されるべきである。

(4)また、右の点は、本件考案が具体化される鋼製型枠の開発の歴史、ガイド板と補強用リブ材の機能上の関連を認識すれば容易に理解できる。

(被上告人の主張)

これに対し、被上告人は、本件考案はガイド板21についてのものであり、縦補強枠である補強リブ36を含まないものであると主張した。そして、特に原審においては、その根拠として次の点を主張した。

(1)本件考案の当初明細書は、技術分野、その目的、効果ともにガイド板に関するものであり、その他の記載も専らガイド板に関するものであり、本件考案はガイド板に関するものであることは明白である。

(2)本件考案は、右当初明細書から技術範囲をコンクリート型枠の補強用リブ材に関するものとする補正がなされているが、この補正は要旨を変更するものである。このことは、本件考案からなされた二件の分割出願の審査経過から明らかである旨主張した。

(二)争点二について

(上告人の主張)

(1)上告人は、本件考案の構成要件Aにおいて示される「一側固着」の概念につき、補強用リブ材の固着方法はその形状に依存するものであり、一側固着か両側固着かは対立する概念ではなく、設計上の微差であると主張した。

(2)また、「両側固着のリブ材にガイド機能を持たせることが不可能であることは自明である」とした第一審の判断については、両側固着のリブ材にガイド機能を持たせるためには、単に連結ピンを指示する連通孔を設けるだけで可能であり、第一審の認識不足を指摘した。

(被上告人の主張)

(1)これに対して、被上告人は、「一側固着」か「両側固着」かは置換可能性、置換容易性があるとはいえず、設計上の微差とはいえないと主張した。

三、右争点一、二に関する原判決の判断

右争点一、二に関する当事者の主張に対し、原判決は、第一審判決を引用しつつ冒頭前文記載のとおりの判断を下したものであるが、以下特に原審における右当事者の主張に対する原判決の判断に係る部分を要約して記載する。

(一)争点一についての原判決の判断

原判決は、実用新案の登録出願にかかる考案の技術的範囲の認定にあたっては、出願経過も参酌する必要があるとして、本件考案の出願経過を参酌して争点一の「補強用リブ」の意義について次のように認定した。(なお、冒頭に前文として記載した原判決の理由に詳細に記載されているが、重要な部分であるので、一部要約しながら再度記載する。)

(1)本件考案の明細書における実用新案登録請求の範囲に記載された事項によれば、本件考案の構成要件Aにおける「補強用リブ」には文理上何らの限定がされていないので、縦補強枠としての補強用リブ36を含むものと解釈できないものではないが、その出願時における当初明細書によれば、本件考案の対象が専らガイド板ないしガイド機能を有する補強リブに関する考案であったこと、右当初明細書記載は控訴人の補正により前記の本件考案の請求の範囲のとおりに改められたものであることが明らかである。

(2)実用新案法九条によって準用される特許法四一条は、出願公告決定謄本の送達前においては、出願に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてした請求の範囲を変更する補正は、明細書の要旨を変更しないものとみなされる旨定めており(このことは、当初の出願として効力を有する補正は、右の範囲内においてのみ許されることを意味すると解される。)、補正が右明細書又は図面に記載した事項の範囲内であるかどうかは、出願時における当業者が補正前の明細書の記載からみて自明な事項と言えるか否かによって決すべきものと解される。そこで、控訴人が本件考案の出願にあたり添付した当初明細書の記載に基づき前示補正後の内容を検討すると、本件考案の名称が「コンクリート型枠における連結ピンのガイド板」から「コンクリート型枠の補強用リブ材」に、技術分野を「コンクリート型枠における連結ピンのガイド板に関するもの」から「コンクリート型枠の補強用リブ材に関するもの」にそれぞれ改め、考案の目的、効果についても連結ピンのガイド板に関するものから補強用リブ材に関するものに改めて、その請求の範囲をガイド板に限っていたものを補強用リブ材としており、本件考案の技術意味をガイド板に関するものから補強用リブ材に変更している。しかし、本件考案の当初明細書においては、ガイド板と縦補強枠である補強用リブ材とは明確に区別して記載されており、構成要件B、Cの切込みと膨らみをコンクリート型枠の連結部材以外の補強用リブ材に形成することは当初明細書及び図面に記載した事項とは言えないし、また、当初明細書及び図面に記載した事項から見て当業者にとっての自明な事項とも言い難いものである(これは、分割出願A、Bの経緯からも裏付けられる。)

(3)そうすると、控訴人のした前記補正をガイド機能を備えない補強用リブを含むものとして認めるとすれば、右補正は当初明細書の要旨を変更するものとなると考えられるので、本件出願をできる限り有効なものとして解釈するのが相当であるから、本件考案の技術的範囲は、現実にされた右補正にもかかわらず、当初明細書の要旨の範囲内において解釈すべきである。したがって、本件考案における構成要件Aの「補強用リブ」の概念は、少なくともガイド機能を備えたものであることを要すると解するのが相当である。

(4)控訴人が、当初明細書及び図面において、縦補強枠である補強用リブ36が図示されており、ガイド板21も補強材としての機能があることを示しでいるので、前記補正は当初明細書及び図面に記載した事項の範囲内のものであると主張した点については、次のように述べてその主張を排斥した。

弁論の全趣旨によれば、当初明細書及び図面における補強用リブ36はコンクリート型枠自体の構造を示すために記載されているにすぎず、本件考案を利用した補強用リブ材として記載されているとは認め難く、ガイド板21の補強機能についての記述というものも、本件考案によりガイド板21の変形を防止する効果があることを述べているもので、型枠への補強機能を述べているものではないから、右記述をもってガイド板を補強用リブとして記述したものと見ることはできない。したがって、右補正の内容は、補強用リブとして説明されていないガイド板から、ガイド機能を有しない補強用リブも含むものへと変更するものであることになり、右補正の内容が当初明細書及び図面に記載のある事項の範囲内にあると言うことはできない。

(5)控訴人が、当初明細書を基準にしても、当業者にとっての自明事項を踏まえて本件考案の技術的思想をとらえれば、本件考案がガイド板に限定されるものではないと主張した点については、本件考案は公知のスクラップレスプレスを一側固着の方法によりガイド板に応用したことに進歩性があるとしても、これを縦補強枠に応用することまでが本件考案の内容として自明な事項とはただちには認め難いとして、この主張も排斥した。

(6)そうすると、本件考案は、補正後も依然として、縦補強枠である補強リブ36を対象としたものでははないと考えるべきであり、本件考案における「補強用リブ材」の概念は、これを前示のとおりに(原判決引用)限定して解釈しなければならない。

(二)争点二についての原判決の判断

原判決は、前掲争点一の本件考案の「補強用リブ材」の概念を、少なくともガイド機能を備えたものであることを要するとの認定のもと、争点二「一側固着」の意味について検討し、次に掲げる理由により「一側固着」は「両側固着」を含まないものと認定した。

(1)本件考案は、その対象を少なくともガイド機能を有する「補強用リブ材」とするものであるが、このことと、控訴人が自らその要件を補正して一側縁を型枠本体に固着させるとの要件を示したものであることを併せて考えれば、本件考案は、切り込みと膨らみを形成した両側縁の一方を固着部に、他方をガイド部に設けることを特徴としたものであることが明らかである。したがって、控訴人が指摘するような両側縁を固着させたうえ連結孔を設けてガイド機能を持たせることは本件考案の明細書及び図面に示されたその技術的範囲に属するものではなく一側固着か両側固着かは設計上の微差にすぎないと言えるものではない。

四、原判決の違法について

しかし、右原判決の理由には、争点一、こそれぞれについて次のような実体法上の解釈適用を誤った違法がある。

(一)争点一について

前示のとおり、原判決は、本件考案の明細書における実用新案登録請求の範囲に記載された事項によれば、その文言どおり解釈すれば、本件考案の構成要件Aにおける「補強用リブ」は縦補強枠としての補強用リブ36を含むものと解釈できるにもかかわらず、出願経過を参酌することにより少なくともガイド機能を備えたものであることを要すると認定した。

本件考案の出願の経過が、原判決認定のとおりのものであることについては、上告人も争わないところであり、原判決が、本件考案の技術的範囲の認定にあたって本件考案の出願経過を参酌することにより、一歩踏み込んで本件考案の技術的範囲の解釈を客観的に行おうとした姿勢は、それなりに評価されるものである。

しかし、本件考案の「補強用リブ材」の概念を、少なくともガイド機能を備えたものであることを要すると判断した原判決は、以下に述べるように実用新案法第二六条において準用する特許法第七〇条の規定に違背して技術的範囲の認定を誤ったものであり、その判決の理由に齟齬があると言えるものである。

(1)原判決は、本件考案の当初明細書においては、ガイド板と縦補強枠である補強用リブ材とは明確に区別して記載されており、構成要件B、Cの切込みと膨らみをコンクリート型枠の連結部材以外の補強用リブ材に形成することは当初明細書及び図面に記載した事項とは言えないし、また、当初明細書及び図面に記載した事項から見て当業者にとっての自明な事項とも言い難いし、このことは、分割出願A、Bの経緯からも裏付けられると述べた。

しかし、本件考案は、出願当初コンクリート型枠における連結ピンのガイド板に関する権利要求をしており、そのため、その実用新案登録請求の範囲には、網補強枠と共に型枠本体の補強機能を有する「ガイド板」の構成に関し、ガイド機能としての作用を奏する構成要件を限定し、このガイド機能に関する構成要件で特定されたガイド板の一実施例を明細書の考案の詳細な説明中に記載していたものなのである。つまり、本件考案の当初明細書において縦補強枠と明確に区別して記載されているのは、補強機能とガイド機能を共に有するガイド板に関する技術思想のうち、連結ピンをガイドするガイド孔が透設された「連結ピンのガイド板」に関する技術思想であり、かかるガイド板に関する記載は原出願が包含する技術思想のうちの一態様に過ぎないのであり、この点において原判決は認定を誤っている。

(2)また、原判決は、補強用リブ材が縦補強枠36と共にガイド板21をも含むとすることが自明であるとは認められないとしているが、この認定も次に述べる理由により誤りであることは明白である。

そもそも「リブ」なる語は、英語の「rib」であり、我が国の社会通念では、肋骨、あばら骨等を意味する語として使用されており、技術用語としても「板状または薄肉状の部分を補強するためにつける骨∥力骨」を意味するものと定義され、「補強する」という機能的意義を強調したここでいう、「補強用リブ材」の語は、当然に補強材として機能する骨材と解釈されるものである。

また補強用リブ材というとき縦補強枠36と共にガイド板21も含むとすることが自明か否かは、個々の部材名称に拘泥することなく、各部材(縦補強枠、ガイド板)の本質的機能として補強機能を有しているか否かについて判断されるべきである。

そして、本件考案の当初明細書及び図面の記載を見てみると、その図面第8図及び第9図には、コンクリート型枠本体30の裏面に対し、三枚の縦補強枠36と共にガイド板21が上下の補強枠32間に差し渡し設けた構成が示されている。又、同じくその第4乃至6図には断面ほぼL字形のガイド板21の構成が示されている。

ここで、縦補強枠36ガイド板21共に鋼板を縦方向の折曲線にて折曲げして形成されたものであり、両者は共にその折曲げ時に形成された一側を前記型枠本体30の裏面に溶着固定した構成となっている。しかも、前記縦補強枠36とガイド板21とは共に補強機能は備えており、基本的な形態及び型枠本体30の裏面に対する取付態様において補強という点で技術的な差異はない。この点で、両者は共に、コンクリート型枠本体30の裏面に対して肋骨、あばら骨等の態様で取付けられた「リブ」であり、又、型枠本体30のコンクリート成型面31a)を補強する骨材であり、社会通念上及び技術用語上で周知の「補強用リブ材」に他ならないのである。

(3)原判決は、控訴人が、当初明細書及び図面において、縦補強枠である補強用リブ36が図示されており、ガイド板21も補強材としての機能があることを示しているので、前記補正は当初明細書及び図面に記載した事項の範囲内のものであると主張したのに対し、当初明細書及び図面における補強用リブ36はコンクリート型枠自体の構造を示すために記載されているにすぎず、本件考案を利用した補強用リブ材として記載されているとは認め難く、ガイド板21の補強機能についての記述というものも、本件考案によりガイド板21の変形を防止する効果があることを述べているもので、型枠への補強機能を述べているものではないから、右記述をもってガイド板を補強用リブとして記述したものと見ることはできない。したがって、右補正の内容は、補強用リブとして説明されていないガイド板から、ガイド機能を有しない補強用リブも含むものへと変更するものであることになり、右補正の内容が当初明細書及び図面に記載のある事項の範囲内にあると言うことはできないと認定した。

しかし、本件考案の当初明細書には、コンクリート型枠に溶接固定されたガイド板21の作用に関し「また、周知の様にコンクリート打設時にはコンクリート圧力がコンクリート成型面31aに加わるが、それによってもガイド板21に変形力が加わる。しかしながら、ガイド板21に補強突部27を設けたことにより、ガイド板21は変形しにくくなる。従って、コンクリート型枠の寿命が長くなる。」と記載されている。

右に傍線を付して示したように、ガイド板21が変形しにくくなることにより、コンクリート型枠の寿命が長くなるのは、ガイド板21の補強機能によるものであることに外ならないのであり、この記載から当初明細書においては縦補強枠36と共にガイド板21も補強用リブ材であることを明示されていた、すなわち補強用リブ材の概念が縦補強枠36と共にガイド板21をも含むことが当業者において自明事項であったのは明らかであり、この点において原判決は明らかに認定を誤っている。

(4)原判決は、本件考案の構成要件B、Cの切込みと膨らみをコンクリート型枠の連結部材以外の補強用リブ材に形成することは当初明細書及び図面に記載した事項とは言えず、また、当初明細書及び図面に記載した事項から見て当業者にとっての自明な事項とも言い難いとする根拠として、本件考案からなされた二件の分割出願A、Bの経緯からも裏付けられると述べているが、本項(1)乃至(3)で述べたとおり補強用リブ材には縦補強枠36と共にガイド板21をも含むとすることは自明事項と認められ、且つこれらの分割出願の構成要件は、すべて原出願である本件考案の出願当初明細書に記載された事項(自明事項を含む)であることも明白であり、分割の適法性を否認する根拠とはなりえない。

(5)また、原判決は、控訴人のした前記補正をガイド機能を備えない補強用リブを含むものとして認めるとすれば、右補正は当初明細書の要旨を変更するものとなると考えられるので、本件出願をできる限り有効なものとして解釈するためには、本件考案の技術的範囲は、現実にされた補正にもかかわらず、当初明細書の要旨の範囲内において解釈すべきであるとしているのである。

しかしながら、本項(1)乃至(3)で述べたように、補強用リブ材が縦補強枠36と共にガイド板21をも含むことは出願当初の明細書から自明の事項であり、してみれば、ガイド機能う備えない補強用リブを含む補正であっても要旨変更になることなど有り得ないのであり、この点においても原判決は認定を誤っている。

(6)さらに、原判決は、控訴人が、当初明細書を基準にしても、当業者にとっての自明事項を踏まえて本件考案の技術的思想をとらえれば、本件考案がガイド板に限定されるものではないと主張したのに対し、本件考案は公知のスクラップレスプレスを一側固着の方法によりガイド板に応用したことに進歩性があるとしても、これを縦補強枠に応用することまでが本件考案の内容として自明な事項とはただちには認め難いとした。

しかし、これは、補強用リブ材がガイド板21のみならず補強用リブ36(縦補強枠)をも含むか否かという問題と同じであり、前示のように、本件考案の補強用リブ材の概念が、ガイド板21のみならず補強用リブ36(縦補強枠)も含むことが明白である以上、本件考案はガイド板に限定されるものではないことは明らかである。

(二)争点二について

(1)原判決は、前掲争点一の本件考案の「補強用リブ材」の概念を、少なくともガイド機能を備えたものであることを要すると認定し、それを前提条件として争点二「一側固着」の意味について検討し、「一側固着」は「両側固着」を含まないものと認定したものである。

しかし、本項(一)において述べたように、前提条件たる争点一「補強用リブ材」の意義の解釈が誤りである以上、争点二はすでにその根拠を失ったといえる。

よって、本件考案は、ガイド機能を有する「補強用リブ材」に限定して解釈されるものではないことは勿論のこと、切り込みと膨らみを形成した両側縁の一方を固着部に、他方をガイド部に設けることを特徴とするとした原判決は誤りであることは明白である。

五、結語

以上述べたとおり、原判決は、本件考案の技術的範囲の認定にあたり、第一点で述べたとおり判決に影響を及ぼすことが明らかなる実体法(実用新案法第二六上において準用する特許法第七〇条)の違背又は判決の理由に齟齬があると言うべきである。

なお、原判決の判断の裏付けには、前示のとおり、本件考案の出願経過、特に本件考案から分割された分割出願A及びBの経過を参酌したことが大きな影響を及ぼしていることは明らかである。しかし、これらの分割出願については、いずれも特許庁において審査或いは審判に継続しており、これらの分割出願が適法であり、出願日が遡及するものであることが認定されれば、本件判決に影響を及ぼすことが大なること明らかである。もし本件判決後に、各分割出願の審査或いは審理の結果が判明することがあれば、それは再審事由に相当する程本件判決に及ぼす影響が大きいものとなる。よって本件上告事件については、各分割出願の審査或いは審理が確定するまで、審理を延期していただくのが妥当と考える。なお、この審理の延期の申立てについては、後日改めて上申書をもって理由を詳細に説明する。

第二点 原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかなる審理不尽の違法があるから破棄きれるべきである。

原判決は上告理由第一点記載の本件考案の認定にあたって、採証法則或いは経験則違反と審理不尽を免れず、これらが実体法上(実用新案法第二六条において準用する特許法第七〇条)の適用の誤りを招来し、原判決を下す直接の根拠となったものである。

一、原判決の審理不尽の違法について

(1)原判決は、「両側を型枠本体に固着する」構成(構成要件a)を有するイ号物件が、本件考案の構成要件A「一側を型枠本体に対して固着する」を充足しないと結論づける根拠として、裁判所における顕著な経験則によれば、コンクリート型枠のパネル補強用のリブ材の型枠に対する固着方法は、一側固着か両側固着に限られ、他の方法をとることはできないと認められ、これを前提とすれば「一側を型枠本体に固着する」ということは、「両側を固着する」ということとは対立するものであると認定している。

しかしながら、補強用リブ材のコンクリート型枠に対する固着方法が一側固着か両側固着に限られ、両者が対立する概念であるとの認定は、単に原審における認識不足或いは経験則違反によるものである。

すなわち、補強用リブ材のコンクリート型枠に対する固着方法は、その補強用リブ材の形状に依存するものであり、原審は単に本件考案の公報に記載された図面、或いは各号証から視覚的に認識できたイメージに囚われ、固着方法に対する認定を誤ったものであり、原判決が経験則違反であることは免れ得ない。

(2)さらに原判決は、本件考案の「補強用リブ材」は少なくともガイド機能を有する必要があるところ、両側固着のリブ材にガイド機能を備えさせることがおよそ不可能であることは、自明の事実であって、一側固着か両側固着かは置換可能性があるとは言えないと認定しているが、これもまた本件考案の明細書の一実施例の記載に囚われた結果ガイド機能の本質を見誤ったものであり、原審の認識不足或いは経験則違反によるものである。

すなわち、リブ材にガイド機能を持たせるには、連結ピンを回動且つ左右方向に移動可能に支持する手段、例えば連通孔を設けるだけで足り、両側固着のリブ材であってもガイド機能を備えさせることはいとも容易なことなのである。つまり、原判決は、すでに構築した結論に到達せんがために、両側固着のリブ材にガイド機能を備えさせることが可能か否かを検討することなく、単に自明の事実であるとして捨象してしまったに過ぎず、これは明らかに原審の経験則違反である。

二、結語

原判決は、上告理由第一点指摘のとおり、本件考案の技術的範囲の認定にあたり、その前提を誤ったばかりか、認識不足或いは経験則違反により本件考案の公報に記載された実施例等から把握できたイメージのみに囚われ、本件考案の構成要件の解釈を誤ったものであり、その点において原判決の破棄は免れ得ないものである。

以上

(添付書類省略)

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